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野田地図「贋作『罪と罰』」

ドストエフスキーの名作小説を
野田流にアレンジ・再構成した作品の再演。

時代は幕末・江戸。
日本初の女性官僚になるために生きてきた三条英(松たか子)は、
「優れた人間は、既存の法律や道徳に縛られなくてよい」とのエリート意識から
殺人を実行する。しかし予定外の人間まで手にかけることとなり、
罪悪感と逮捕の恐怖に苦しむことに。
彼女の異変に気づいた同じ塾生の才谷(古田新太)は心配するが、
彼にも大きな秘密があった…。


今回の舞台は、客席を対面させた
菱形のシンプルな特設センターステージ。
8本~4本のポールで空間を分け、
いろいろな形をした沢山の椅子がセット、というか大道具?。
複数の椅子を組み合わせて酒場のカウンターや、バリケードや祭壇、
墓などを作ります。もちろん、普通に椅子としても使われます(笑)。



舞台の四方の角に沿って昇降用のスロープがついていて、
役者さんが出入りをしますが、
袖がないので舞台を降りた役者はそのまま舞台の下に着席待機。
面白かったのは、スピーカーから鳴る音響(音楽とか)の他に、
待機している役者自身がSE(扉を叩く音とか、引き戸を明ける音とか、
お金を落とす音とか…)を担当。
転換も役者みんなで道具を持って上がったり降りたり。
でも、セット移動から次のシーンの切り替えが
かなりリズミカルかつスピーディなうえに、皆さん終始真面目な顔だったので、
それで観客も集中力が途切れることなくストーリーを追うことができました。
しかしながら、主役が真剣に木槌で椅子を叩いて音を出している芝居って
はじめて観たかも…(笑)
あと、面白く使われていたのが緩衝材。いわゆる「プチプチシート」ってやつですね。
足元に引いて雪、吊るして幕、その他、舞台の上にいる人たちに
がさーっとかぶせて視覚的にシーンを分ける道具にも使われていました。
舞台の真ん中を左右に横切る2枚の紗幕はレールで移動。
2枚同時に動かすシーンの早変えや、あえて隠す演出、
1枚利用&ライティングで二つのシーンを交互に見せたりも。
演出的にはかなり面白かったのですが、
ちょっとばたばたした印象も与えてしまうので善し悪しですね。
緩衝材を使うのも、素材が素材だけに、貧乏くさく見えてしまう懸念もあり。

自分が行ったのは、土曜の夜公演。
席は一般席と反対側、普段ならバックステージの位置にある席の8列目でした。
でも、かなり良く見えて、役者さんの表情までよく分かりました。
ただし、反対側の観客に向かっているときはやっぱり台詞が聞きづらい。
主催者側もそれを考えて、2階席の中央通路以降の席はクローズしてたみたいです。
その日はダブルヘッダー2本目で、
スタート時は松さん・宇梶さんがちょっと疲れた印象。
なんだか野田さんも幾分精彩を欠いた感じでした
(公演期間も半ば、ちょっと疲れが出る頃なんでしょうか、と思ったり)。

もともと野田脚本は、言葉の語呂合わせやリズムを結構重んじるところがあって、
通常の会話では余り使わない言いまわしや、
全く意味のない、もしくは意味があるけどその場では提示されない言葉が
台詞として登場することが多く、この作品でもなかなか分かりづらい部分がありました。
ただ、個人的には、意味がよく分からなくても、
言葉の語感や響きだけで心を揺さぶられて泣けてしまうことがよくあり、
それがかなり魅力的でもあったりします。
(かつて「キル」や「半神」のモノローグで号泣した人)。
今回も後半、英と才谷が相対する場面では、
静かながらも緊張感のあるやりとりがなされました。
が、なんとなく台詞がいつもより甘めの浪漫派みたいな感じ。
しかも、それを口にするのが古田新太という役者なもので、
なんとも微妙…(ついついいつもの印象で…すみません)。
しかしながら、英が口では強気なことをいいながら、
胸の内では激しい後悔が渦巻き、慟哭するシーンでは、
松さんの芝居に観客全員が引き込まれていました。
そして、すべての罪を告白した後の清清しい表情は
まさに「松たか子」という女優が持つ清廉さが現われていて、
彼女の起用はしかるべきものだったのだと納得。

作品的にはテーマも幾分重く、構成も全体にこぢんまりとしていて、
ものすごい感動の嵐~!って感じではないけれど、
役者さんがみんなきっちり自分の仕事をしていて、
「プロの仕事を見た!」という満足感。
もう一度くらい観たいなぁと思い、
来月、wowwowで放送があるそうなので、
また友人に録画をお願いしてしまいました。
今度は聞こえにくかった台詞が聞ければいいな…。

by yuqui084 | 2006-02-14 16:59 | 舞台

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